「グリーンブック」と「風に吹かれて」

 

 家人がNetflixを契約した。折角なので何か見たいコンテンツはないかと私もNetflixにアクセスしてみた。どうしても見たい古い映画が何本かあるのだがNetflixの品揃えにはないようだ(契約内容によりコンテンツに差がある)。 

 

 そんな中「グリーンブック」というタイトルの映画が目に入った。日本では2019年に公開されたアカデミー作品賞を受賞した映画である。黒人差別が色濃く残っていた1962年の実話を基にしたアメリカ映画である。一応感動した。いい映画ではある。ジャマイカ系黒人のピアニストと、彼に雇われたイタリア系アメリカ人の運転手が人種差別が色濃く残るアメリカ南部への演奏旅行に出かけるロードムービーである。最初は反目しあった両者が、旅を続ける中で人種差別の現実に向き合いながら理解し合うという内容だ。

 

 どうしても引っかかってしまうのは、今この時代にこのテーマが、ということである。2019年と言えば、キング牧師暗殺から51年。いまだに人種差別をテーマ(人種差別のみがこの映画のテーマとも思わないが)とした映画を作らねばならない現実に暗澹とする。

 

 似たような思いを過去に感じたことがある。反戦の歌「風に吹かれて Blowin' in the Wind」の名曲を作ったノーベル文学賞のボブ・ディランのデビュー30周年トリビュートライブのこと。同曲を熱唱したゲストのスティービー・ワンダーが冒頭述べた言葉。たしか、「15歳の時からこの歌を歌っているが、今でもこの歌を歌わねばならないのが無念だ」という趣旨だったと思う。ベトナム戦争や60年代人権運動などを背景に作られた「風に吹かれて」である。 

 

 世界から戦争や差別、貧困が消滅せず、いつまでも歌われ続けることへの無念の言葉である。